2006.12.4更新







前編





11月1日、早朝4時起床。外はまだ真っ暗の夜明け前、ものすごく眠い・・・
5時には東京を出発し、僕は車でロングボードを積んだケンタロウさんの古いランドクルーザーを千葉の一松<ひとつまつ>海岸へと追っかけた・・・

その日はケンタロウさんが友達に頼まれて絵を描いたサーフボードの写真を撮りに行くのが目的だった。だからタイトルではケンタロウさんの「サーフボード」とありますが、正確にはケンタロウさんが絵を描いた、友達のサーフボードです。
ケンタロウさんのサーフィン仲間「まんがクラブ」の友達とボードの持ち主であるしんちゃんと共に、今回、僕は撮影ついでに初めてサーフィンをすることになったのです。
ロングボードやウェットスーツなどなどサーフィンに必要なものを全てケンタロウさんに借り、目的は撮影でも、九十九里の海が見えるとすっかりサーファー気分でした。

そもそもケンタロウさんが絵を描いたサーフボードの写真を撮りたいと思ったきっかけは、雑誌クウネルでケンタロウさんの作るうす味の料理を撮影した時のこと。
ケンタロウさんは僕らに友達のサーフボードに絵を描くことになったと、取材の途中、スケッチブックの下絵を見せながら、楽しそうにサーフィンの話を始めたのです。
食卓のテーブルの脚にはパドリング(ボードの上にうつぶせになって両手で水をかく動作)の筋力をつける為のゴム紐が括りつけられてあり、波乗りのバランス感覚を養う為のインドボード(筒の上に板が乗っかってて、その板の上でバランスをとる道具)という遊び道具が置いてあったりと、ケンタロウさんのサーフィン好きが部屋のあちこちからうかがえました。
ケンタロウさんは料理家になる前、武蔵野美術大学の生活デザイン科を中退してイラストレーターだったと、以前僕は何かの対談記事で読んだことがあったので、そのサーフボードが見たくなり、ケンタロウさんにサーフィンに連れてって下さいとお願いしたのでした。

11月の海に入るというだけで、「寒いんだろうな」と僕はすごくビビっていましたが、この日は快晴で例年に比べ、海水は冷たくなくて、ウェットスーツを着ていると汗をかく程でした。ゆっくり準備体操をして、浜辺でケンタロウさんに波の乗り方を簡単に聞いて、とりあえずお借りしたカーキ色のロングボードを片手に海へ。


ケンタロウさん「じゃあ、怪我しない様に気をつけて下さい」

長野「えっ!講習もう終わりですか?一緒に行ってくれないんですか?待って〜!」

パドリングであっという間に遠くへ行ってしまったケンタロウさん。
ザッパーン!!ザッパーン!!!
必死にパドリングするもほとんど前に進まず、波に揉まれては溺れそうになったりで、僕は5分もしないうちに息切れし浜へ戻った。すると友達のしんちゃんが何気なく丁寧に教えてくれました。

しんちゃん「遠くに行かなくても、手前に白く崩れた波があるじゃないですか、それをスープと言うんだけど、最初は立てなくてもいいから、そこでボードが波に乗る感覚を掴んだ方がいいですよ。楽しんでやりましょう。ファンサーフですよ」

長野「はい!ありがとうございます。(僕を置き去りにしたケンタロウさんに比べ、しんちゃんはなんてやさしい人なんだろう)」

その時、しんちゃんが持っていた短めのサーフボードが、今回撮影したかったサーフボードだった。以前ケンタロウさんの家でみた下絵そのままのサーフボード。しんちゃんは乗るのがもったいないと大事そうにしながら、しばらく眺めてからボードを手に海へと走って行った。サーフィン体験記は後に書くことにして、その夜、ケンタロウさんにそのサーフボードの話を聞きました。







ケンタロウさん「以前、しんちゃんがイラストレーターの友達に描いてもらった派手なボードを見せてもらったことがあって、その時『オレも描きたいなぁ』なんて言ってたら、『じゃあ描いてよ』って、しばらくして本当に頼まれたんですよ」

長野「見てビックリしました。以前見せてもらった下絵どおりで。ボードに絵を描いたのは初めてだったんですか」

ケンタロウさん「はじめてでしたね。今年の夏、10日ぐらいかけて描きました。ロゴを作ってきっちりトレースしたり、水性ペンキをゆっくり垂らしたり、最後はプロにアクリル樹脂でコーティングしてもらいました。料理もそうだけど僕はそういう作業自体がすごく好きで、自分でいうのも何ですけど『かっこよすぎる!』って、あまりの出来の良さに描き終わってからも、しばらく自分家のガレージに立て掛けてて、惚れ惚れと眺めてたんです。すっかりしんちゃんに渡すのが嫌になったぐらい・・・(笑)」

長野「うん綺麗だった。ペンキが垂れていたり、どこか途中っぽいんですけど、きっちり仕上がっていて。ボードのデザインを決める時、どんなことを考えましたか」




ケンタロウさんによるボードとロゴのデザイン

 



ケンタロウさん
「しんちゃんに似合って欲しいんだけど、でも自分がどういう絵を描きたいかをまず一番に考えた。とはいっても、しんちゃんのボードだからやっぱり真面目でストレートで、二枚目なかっこいいボードにしたかったんです。手描きのボードは自分が持つのは実はあまり興味ないけど、今回描いたボードは上半分にきっちりロゴマークを入れて丁寧に塗装して既製品のような部分を残しつつ、下半分はペンキがダラーっと垂れてて、しぶきが飛んでたり、一点ものらしく仕上げようと。いろんなスケッチを描きましたね。テキスタイルや模様なんかのパターンもいろいろ。途中でそれらをしんちゃんに見せてどんな感じがいいって何度か聞こうかと思ったけど、最初に『すべて任せるから』って言われてたから。そこがしんちゃんっぽいっていうか、信じてくれているのがうれしかった」

長野「描き終えたボードをしんちゃんに渡したとき、しんちゃんはどんな反応でした」

ケンタロウさん「『さいこーっ!』って喜んでくれた。もったいなくて乗れないなぁって。そう言われると嬉しいんだけど、やっぱり道具として乗って欲しいし、ボコンボコンにして欲しいですよね。しんちゃんは『まんがクラブ』で一番波乗りがうまいんですよ。波の見極めがよくていつもいい波に乗るんです。『まんがクラブ』のエース、言わば契約ライダーですよ。だからかっこいいボードに乗ってもらわないとね。僕は『まんがクラブ』の主任ですけれど(笑)」

長野「(笑)。素人の僕が見ても、しんちゃんの乗る波はなんかいい波だなって見ていて思いました」

ケンタロウさん「でしょう。僕はついつい『おらおらぁ〜このでっかい波に乗っけてやろうかぁ?』って波がこっちに聞いてくる感じの(笑)いかにもキャッチーなデカい波を見つけては、我れ先にとガツガツパドリングして無理矢理そのデカい波乗るんだけど、でも乗った時には崩れ始めたりして結局は大したことなかったりする。どこか波に乗らされているというか。でもしんちゃんが乗る波は最初は大人しい波でもしんちゃんが乗ってから、力のある大きな波になってく。まさに波に乗っている感じ。それを見るとね、悔しいのよ・・・ホントに綺麗に乗るのよ」


後編
につづく
 



ケンタロウ
料理家
1972年東京生まれ
武蔵野美術大学在学中よりイラストレーターとして活動を始める。
大学中退後、紆余曲折を経て料理家になる。
雑誌、書籍、テレビ、ラジオ、料理教室、イベントなどで活動する。
著書「ごはんのしあわせ」(ソニーマガジンズ)、「おいしい毎日」(講談社)など。


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