2006.12.15更新







後編





長野「ケンタロウさんがサーフィンを始めたのはいつ頃ですか。何かきっかけがあったんですか」

ケンタロウさん「そもそも自分の人生において、サーフィンというものを知らないままでいいのか?って昔からどこかで思っていた・・・そういうことって、人それぞれにありませんか?音楽もそう思ってたから学生の頃からバンドをやって。でもサーフィンは思ってても、なかなか簡単に始められるものではないですよね。まずは海に行かなくちゃいけないでしょ(笑)経験者の友達がいないとわからないことだらけだし、ボードやウエットスーツなんかもすぐ買えるものでもないし。自分ひとりである日突然やれるものではない。いつかはと思っているうちに年をとってしまって。でも4年前のある日、大阪の友達でTRUCKっていう家具屋をやっている黄瀬君が東京にサーフボードを買いに来たことがあって、一緒にサーフショップに行ったんですよ。それで『いつかいつかって言ってるだけじゃいつまでたっても始められへんから、もう今ここでケンタロウも板買いーや』って言われて、その場で突然ボードを買って、そのまま湘南の海へ直行した(笑)。でもね最初が悲惨だった。教えてくれると思ってた黄瀬君は遠くに行ってしまって、どんどん波に乗っているわけですよ。ひとりとり取り残された僕はひたすら座る練習ですよ。波がなくてもボードに座ってるだけの人がいるじゃないですか。なんてことないんですけど、ただ座っているだけなのに、みんながすごく思えた。僕は何度も横転をくり返し、結局その日は座ることすら出来なかった。でもそれでも面白いって思えたんですよね。不思議と嫌にならなかった。後は少しずつ自分で覚えて行くんですよ。教えてもらったからといってすぐに出来るものでもないし」

長野「ボードに描かれた絵を見て、ケンタロウさんは器用な人だとおもっていたので、ボードに座れなかったっていうのは意外です」

ケンタロウさん「絵とか料理は自分が好きになったら、たまたま得意なことだった。それはすごくラッキーなことだと思う。料理は実際、仕事になっているわけだし。でもね、サーフィンは違ったんです。ものすごく好きなんだけど、なかなか上手くならない。本当に自分には向いてないと思ったし、波乗りに行く度に、常に悔しさともどかしさをはらんでいる。だけどちょっと思った通りに滑れたり、思わずはじめての何かがすーっと出来てしまったり、単純に自分の進歩を感じたりする瞬間は最高です。その日のほとんどがダメだったとしてもたった1秒、いい感じで波に乗れたことで、また次の日も行っちゃうんです」

長野「たった1秒の快感ですね。それが忘れられなくて続けてしまう。僕も程度の差はあれ、今日はじめてサーフィンをやってみて、そんな瞬間がありました。どこまでもシンプルだなって思ったんです。サーフボード自体もシンプルだし」

ケンタロウさん「それはサーフィンに限らずどんなことでもそうだと思うんですけどね。サーフボードってあまりにも単純ですよ。スキーとかスノボみたいにピンディングとかネジで締めるといったギミックはないわけです。裸足で乗ればそれだけなんで。だってあの板はなんの役にも立たないとおもうしテーブルにもまな板にも使えないし(笑)でもそこがいい」










長野「僕は今日ケンタロウさんが波に乗ってるのを見て、すげえかっこいいなぁって、かなり羨ましかったです。気持ちいいんだろうなって」

ケンタロウさん「いやほんと僕はダメダメです。進歩が遅すぎる。まだ10代ならじっくり成長したいけど、始めたのが30歳なので、すぐ成長したい。70歳でもやっている人もいるくらいだから、まだまだこれからですけど。一生やります。なんとかうまくなりたいなあ」

長野「やっぱり夏に乗ることが多いんですか?」

ケンタロウさん「そうとも限らないけど、8月はサーフィンの為に仕事を休みにして毎日海に行きますね。もともとはただ休みたかっただけなんですけどね。実際忙しかったし、オレはこんなに自活しているのに、小学生並みの休みもないのかって思って(笑)幸い自分で決めれば休める仕事だし。それで夏休みと言えばバイトだろうってことで、海の家でバイトを始めた。料理で仕事を始めて軌道に乗り始めると、例えば仕事で新幹線で出張する時に『グリーン車でどうぞ』みたいになるじゃないですか。自分にとって分相応じゃないことが仕事をしてたらチヤホヤされて段々出て来る。そういうことが自分の価値基準の核になるのはやばいと思いました。気持ち悪いですよ。だから仕事を休んで、好きな時にバイトしようって思ったんですよ。これが本当に正真正銘バイトで・・・人のレシピで料理して『ここ盛りつけ違うから』ってなおされたりとか(笑)。普通に時給だし」

長野「分相応ってありますね。若い時って勘違いしやすいんですかね。自分はエラいんだっておもっちゃって、普通車かよ!みたいなことって出て来ると思う。そうなってくると自分がどの位置の人間なのかわからなくなることがあると思います」

ケンタロウさん「例えば海の家建てる時もそうなんですけど、ドリルでネジを打てなかったり、怖くて足場に登れなかったらそんな男ダメじゃないですか。どんなにテレビ番組でレギュラー持っているヤツでも、それが出来なきゃそこではダメなヤツなんですよ。そういうことって人として大事だと僕は思うんです。得意なことだけやっていればそんな思いしなくていいし、ラクだけど。でも人には分相応や身の丈に合った生活があると思うんです。だから海の家のバイトも”バイト扱い”が心地いいし、ちょうどいいし、身の丈に合ってると思える」

長野「8月に休みをとって、毎日サーフィンやって、ケンタロウさんとってサーフィンとはこういうものだっていうのはありますか?今日どこかで言ってましたよね『波乗りとは自然との対話だ!』って(笑)」

ケンタロウさん「すみません。それは本当に冗談で・・・(笑)でもサーフィンやってる人の中には赤裸々にそういうことを言う人がいるんですよ(笑)。例えばしんちゃんが言うとサマになる。言う人によっては説得力のある言葉なんですよね。でも僕にとっては波乗りは波乗りです。サーフィンは電気やエネルギーを使うことがないから自然にやさしい、とか、『波乗りは自然との対話だよ』って言う人もいますけど、それもわからなくはないですけど、そこに行くまで古い車でめちゃくちゃガソリン使って排気ガスばらまいているわけだし、サーフボードだって石油製品だし、波乗りをして海への関心は確かに高まるから、海はきれいにしようという気持ちに当然なるけれど、でも、多分誰も波乗りに行かない方が海はきれいだと思うんですよ。だからそういうことは本気で言えないんですよ」

長野「サーフィンをやっている人って上手い下手もありますが、とにかく楽しそうですよね。なにより僕は海に浮かんでるだけで、日常のいろんなものが解毒された気がします。今日は気持ちよかったです。全然波には乗れませんでしたが、気分は最高でした」

ケンタロウさん「やはりニコニコサーフですよ。楽しまなきゃ。湘南の混んでる海で波乗りするのもそれはそれとして、久しぶりに千葉に来て広い海で波乗りして、やっぱりつくづくファンサーフだよなあって思いました。だって僕たち『まんがクラブ』ですから(笑)」





ケンタロウ
料理家
1972年東京生まれ
武蔵野美術大学在学中よりイラストレーターとして活動を始める。
大学中退後、紆余曲折を経て料理家になる。
雑誌、書籍、テレビ、ラジオ、料理教室、イベントなどで活動する。
著書「ごはんのしあわせ」(ソニーマガジンズ)、「おいしい毎日」(講談社)など。




追伸
結局「まんがクラブ」の名前の意味はわからないままでした・・・ケンタロウさんの話では去年の夏休みに湘南に住んでいる5、6人のサーフィン仲間の間でいつのまにか自然発生した名前だそうです。意味はわからなくても気分が出ているチーム名?だなぁと思います。ケンタロウさんがしんちゃんのボードに描いた絵も気持ちのこもったものでした。
当日の朝、海に入る前にしんちゃんがボードの絵のお返しにとケンタロウさんにプレゼントを渡していました。それはサーフボードに立ったまま使う木製のオール(船を漕ぐ時に使うものと同じ様な形)でした。売っているの見たことがないし、それで波乗りをしている人はまだあまりいないのだそうで、しんちゃんはケンタロウさんの為に自分で作ったそうです。湘南でサーフボードに立ってハンドメイドの木製オールで漕いでいる人がいたらケンタロウさんかもしれません。「まんがクラブ」はニコニコサーフなのです。



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