2005.12.27更新









留守電のランプが点滅、ファックスが一枚、送られてきていた。ファッションブランド「spoken words project」<スポークン ワーズ プロジェクト、以下spoken >の2006年、春夏コレクションの個人受注会の案内だった。妻がspokenの服が大好きで、前回の秋冬コレクションを一緒に見に行った。その時の会場は原宿だったが、今回の会場は引っ越したばかりの錦糸町のspokenのアトリエだという。妻は「これ、かわいい!」なんて言いながら、前回と同じように沢山服を買うのだろう。そんな心配をしながらspokenのアトリエ訪問も兼ね、錦糸町へ向かった。
上京して10年以上経つが錦糸町に来たのはこれが初めてだ。東京は広い故、住んでいる街以外、新宿や渋谷、最近では秋葉原など訪れる街は大抵限られている。ファッションブランド店が多い原宿もそのひとつだ。

ファックスを手に錦糸町駅北口から徒歩10分。トタン屋根の工場の建物が続く。それまでアトリエだった原宿の洗練された雰囲気とは一転、トラックやフォークリフトが停まり、所狭しと錆びたドラム缶や工場資材が並べられている。とてもファッションブランドの春夏コレクションの展示会が行われるとは思えないほど下町情緒があふれた街だ。spokenのアトリエはその中でも、最も古びた青いトタンが目印の工場だった。


飛田さん「この工場、もともとバケツ工場だったんだよね。立体作品を作っている彫刻家や現代美術のアーティスト数名と共同で使っているんだけど、皆で3週間くらいかけてリフォームしたの。それこそ前のショールーム兼アトリエは原宿のアパレルエリアに構えていた。業界的にも原宿なんじゃねぇのってかんじで。とはいっても綺麗だったのは最初だけで、うちの服は染めやプリントを自分達で手作業でやるから、とにかく汚れるのよ。おしゃれなショールームもすぐに工場みたいになってしまったんだよね」

spoken 代表、飛田さんとスタッフの三橋さんは自らアトリエで生地の染めやプリントを行う。(通常ファッションブランドは染めや縫製などを外注する事がほとんどだという)プリントされた生地の中でどこを裁断するかによってや、縫い合わせた服の上から更にプリントすることによって、同じ型でもひとつひとつが違う服になる。だからspoken の商品は量産された服がない。商品ひとつひとつから手作業の感じが直に伝わってくる。

長野「服を買うときもそうだけど、最新のコレクションのショーや展示会(受注会)をやるのって、原宿や青山、代官山や目黒なんかの所謂アパレルエリアですよね。錦糸町、それもアトリエで最新のコレクションの展示会を開くのって面白いですね。」

飛田さん「なにかもっといい見せ方ないかなぁと思っていて。ブランドによってはショーで見せた服を展示会で買える場合と、ショーは見せる為、展示会は売る為と分けている場合があってね。ショーでモデルが着ていて“いい服”と普段日常で着てみて“いい服”とは違ったりもするけど、その場合はただ服のニュアンスだけ同じにするんだよね。今回のうちの春夏コレクション、ショーと展示会の場所がほぼ代官山に決まってたんだけど、結局、ドタキャン。うちは俺個人でやってるし、見せたい時に好きなやり方でやればいいんじゃないってのが基本にある。だから今回はこの工場の現場の雰囲気と合わせて、服を見てもらいたかったっていうのがある。一番嬉しいのは街中で知らない人がうちの服を着ているのを見た時だったりするわけ。その時は後ろから「ありがとう」って抱きしめたくなる程、嬉しいんだよね。だから自分が売りたいと思う服をショーでうまく表現できないかなって、いつも考えている。ただモデルが着て歩いているだけだとつまんないじゃん」

試着を始めた妻が案の定「これ、かわいい!」を連発。
スタッフの三橋さんが、ここぞとばかりに次々に“商品”を勧めている。
うーん、気になる(妻の衝動買いが…)宝さがしの話に集中。

長野「飛田さんが考えるspoken の服って、どんな服ですか」

飛田さん「“なまなましさ”かな。いろんな洋服屋さんに行っても、たったひとつしかない服や作っている人が見える服という“なまなましい服”ってそんなにないと思うんだよね。例えば絵画だったら、当たり前にそのひとつしか無いわけで、どうして服はそういう部分が排除されてるんだろうって不思議に思っていた。服は通常大量生産されるものだから、求められるものは無駄のないシステムだったりする。ただそこで排除される“人間っぽさ”や服としての“なまなましさ”が沢山あると思うんだよね。もちろん無駄や失敗だけではいいものは出来ないけど、時として無駄や失敗が良かったりする事があるじゃん。でもその失敗を無駄とジャッジするのは誰なのか。大量生産の場合だとシステムに合わない服は即失敗という事になるけど…でもその無駄や失敗に魅力や可能性を感じるんだよね。絵描きでもさ、何本も線をひいて「ダメだぁ」ってなったその上から、もう一本違う線をひいてみたら重なった感じが良いって事があるわけじゃない。うちのプリントなんかも汚れたり刷り間違ったときの中にも「わー、神様降りてきちゃったよ」みたいな驚きがある。それがいいかどうかのジャッジを下すことが面白かったりするじゃん。結果、うちの服は同じものはないよっていう作り方をしてる。ブランド立ち上げ当初は見たものと違うって返品とかあったけど、今はspoken の服はそういう服だとわかってもらえるようになった」

妻が既に2着も購入を決意している。そして3着目の購入に悩んでいる。
「お似合いですよぉ」と三橋さん。
妻に「そのへんにしといたら〜」なんて言ってみたけど
「これも、かわいい!」と完全に無視される。

長野「…えっとspoken の服はどこで買えますか?」

飛田さん「東京だと渋谷のセレクトショップ、『デスペラード』いろんなブランドが入っているお店。もうひとつは吉祥寺の『TONE』。東京だとその2件かな。全国だと取扱店は20店くらいあります」

長野「アパレルエリアの原宿から引っ越してきて、錦糸町での生活はどうですか?」

飛田さん「マンションの取り壊しで立ち退きさせられて、原宿から錦糸町へ引っ越してきたんだけど、この服がこんな工場で作られてるのかっていうspokenのキャラ作りという部分ではかなり面白いと思ったんだよね。それと美大に通ってた頃のアトリエみたいでさ、ここを共同で使っているメンバーはそれぞれが全く違う分野で作品を作っているから刺激にもなるし。spokenの仕事で言えば、これだけのスペースがあると今まで以上に大きな生地も染められる。ブランド立ち上げ当初の電話と机だけの下北沢の狭いアパートや、自ら手作業がしたくて工場化した原宿のマンションに比べると断然使いやすいね」

妻は結局、試着していた3着目も購入し満足気。
それでもまだ服の掛けられたラックを物色中。

飛田さん「生活は健全そのものよ。うちのアトリエがある北口側って見てのとおり工場ばかりだし、原宿と比べてお店や飲み屋も少ないからね。ひとりじゃ飲みに行かないし。そういえばおネーちゃん系も行かなくなったなぁ」

長野「…おネーちゃん系はともかく、飲みに行くの大好きだもんね」

飛田さん「それでさぁ。昨日、宅配でエロビデオ買ったよ!7本で1万円。しかも、今どきVHS。及◯◯央のやつが一本入ってたから、それ目当てで買ったんだよ。もうバッチリ、丸見えよ。今度、長野さんに貸すよ」

妻はその会話を聞いているのか、いないのか。
鏡の前でspokenの服にまだまだ夢中だった。





飛田正浩プロフィール
1968年、埼玉県生まれ。多摩美術大学卒業。
染色デザイン科在学中から様々な表現活動を<spoken words project>として行う。卒業を機に<spoken words project>をファッションブランドに改め、1998年東京コレクションに初参加。手作業を活かした染めやプリントを施した服作りをし、オリジナルの一点ものの商品が店頭に並ぶ。同時にそれが『Spring』『装苑』『流行通信』『NYLON』などの国内外の雑誌に取り上げられ、2002年5月竹尾ペーパーショーに参加し紙の服を作る。
現在、YUKI、クラムボンの原田郁子、ohanaなどのアーティストの衣装も手がけ、ファッションブランドの枠を超えて活動中。


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