2005.3.11更新









最近、春めいてきた。桜も咲き始め外は気持ちいいというのに、来月から始まる日本科学未来館での展示の準備で僕はこのところ毎日暗室でプリントをしている。プリント作業とは引き延ばし機を使いネガから印画紙に焼き付けること。自分でプリントする写真家にとって暗室はカメラと同じくらい重要なもの。プリントしているといつも自分の暗室の不便なところに気付くのだが、暗闇の中だと視覚に頼れない分、些細なことでもストレスを感じる。
そんなとき僕は久家さんの暗室を思いだす。スタンダードトレードが内装を手がけ、合理性においても久家さんの経験と知恵が所々に生かされている。だから久家さんのプリントはいつも美しいし、精度の高い仕事ぶりを見て背筋が伸びるような気持ちよさを感じる。


長野「久家さんの暗室って使いやすそうですね。暗室って人それぞれ違っていて、その人の人柄が出てたりするけど、久家さんの暗室は細かなところまでこだわって作っている。」

久家さん「例えばカラープロセッサーを乗せているテーブルは足を床に直接ネジ打ちしてあるから絶対に揺れない。高さも自分の身長に合わせてあるし。カラープロセッサーと引き延ばし機が同じテーブルだと振動を拾っちゃうから、テーブルと引き延ばし機の台は分けてある。
壁はプリントの色味がわかりやすいように選んだ白で塗って、引き延ばし機の天井部分と背後の壁だけは光が反射しないように台の幅に合わせて黒く塗った。照明のスイッチはリモコン式のものを手の届きやすいところにつけてたり。細かく説明するときりがない。
台所やお風呂場とか、生活している部屋を暗くして暗室にするとここまでできないし、やっとこの暗室になって自分以外の人も使えるようになった。自分以外の人が使えるくらい使いやすいということが大切だったんだよね。」

長野「もともと僕はあまり暗室作業が好きじゃないんですが、久家さんは暗室作業、好きですか?」

久家さん「好きなときと好きじゃないときがあるかな。曖昧な答えだけど。自分の好きな写真をプリントしているからといって作業が楽しいかといえばそうじゃない。思い通りにいかなくて逆に嫌になったりして。仕事で必要な写真だと作業自体がテンポよく進んだりして、そんなときは嬉しかったりするよね。でもそれってテンポだけじゃん?って後でまた嫌になったりしてね。」

長野「いままでの暗室について聞きたいんですけど。」

久家さん「暗室と呼べるモノはここで4箇所目かな。それ以外だと学生の頃から引っ越すたびにあったりなかったり…。お姉ちゃんのところに転がり込んでたときなんか当然なかったし。」

長野「お姉ちゃんのところ…。(暗室のことを聞かねば)ではいまの暗室でも不便だと思うことありますか。」

久家さん「ないけど、本棚がほしいね。ネガとプリントと本で棚がいっぱいになってきたから。地下室ももういっぱいになってきたし。」

長野「え、地下室もあるんですか!それでなくても壁中の本棚、写真でいっぱいじゃないですか!(そういえば誰かが久家さんのこと写真バカ一代って言ってたなあ)」



P.S
僕が久家さんの写真を最初に見たのは大学卒業前に写真を仕事にしようかなあとなんとなく考え始めた頃。たしか文藝春秋のマルコポーロという雑誌に掲載されていたレニングラードカウボーイズのポートレイト写真だったと思う。以来「この写真いいなあ」と雑誌を見て思う度に、その写真には久家さんのクレジットがあった。
そのうちにADのアリヤマさんを通じて久家さんと知り合った。的確にものごとを話す人というのが最初の印象で、それはいまでも変わらない。写真や仕事の話などで自分が言葉にできないことを、久家さんは的確な言葉で話してくれる。時にはちょっとした話やバカ話も同じ様に的確すぎて笑えなかったり。

インタビューを終え、車で駅までおくって頂いた。最新型のホンダオデッセイはカーナビやETCはもちろんハンドレスフォンなど最新機能が満載。久家さんは四苦八苦しながらもそんなハイテク機能を使いこなしていた。



久家靖秀(くげ・やすひで)
1962年生まれ。写真家。
東京ビジュアルアーツ卒業後、1990年よりフリーランスとして活動。
代表作に『cover/girl』『画家』『LIFT』など。

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