第1回 スウェーデン・ヨーテボリ




ヨーテボリという都市に来ている。
ヨーテボリは英語でGOTHENBURG(ゴッティェンバーグ)と発音する。
英語だと全然違う場所みたいだ。
どちらにしても、自分はいままでこの都市の名前も存在も知らなかったのだが、一度訪れると「ヨーテボリ」という名前が妙にかわいらしいような気がして親しみが湧いてくる。
今回訪れた理由はヨーテボリにあるハッセルブラッドセンターで写真展を開催することになったからだ。
このハッセルブラッドセンターというのはハッセルブラッドというカメラメーカーの持つ財団法人の写真ギャラリーで、ヨーテボリの中心地にある美術館と併設された施設だ。
見た目も美しいフォルムで機能的にも優れていて、なんといっても独特のレンズのやわらかさが魅力であるここのカメラは、写真を始めたばかりのころの憧れだった。
もちろん値段もいいわけで、その当時の自分には背伸びしないと買えないものだった。
フリーランスになってしばらくしてからこのカメラを手に入れたときには、なんだか感慨深いものがあった。
あれからさらに月日は経って、この場所で展示ができるというのもひとつのくぎりのような、縁のようなものも感じる。
ここ数年、海外での作品発表が続くが、特にヨーロッパが多い。
展示作業のためにそれぞれの場所を訪れる前に、毎回メールでの打ち合わせが続くのだけど、日本に比べてルーズな対応だと感じることはよくあった。
しかし、今回のハッセルブラッドセンターはメールの返信も迅速で、かなりしっかりとした印象があったが、着いてから実際の搬入作業が始まってからも順調で、スタッフも皆しっかりとした方たちばかりで気持ちよく仕事ができた。
今回の展示作業はだいたい3日間ぐらいでできた。
毎朝10時ごろに行くと、ちょうどスタッフのコーヒーブレイクの時間と重なるので一緒にコーヒーを飲み、作業。
12時にランチのあと、作業。
15時にコーヒータイムののち、作業。
で、だいたい17時か18時にその日の仕事は終わり。
ヨーテボリの人たちはだいたい朝8時ごろから17時までが仕事の時間だそうだ。
コーヒータイムをきっちりとるあたりも、規則正しさを感じる。
なるほど、この人たちはメールの返事も早いことだよな、と思う。
普段の東京での生活はだいたい自宅でひとり暗室作業をしているのがメインだから、こうやって毎日規則正しく仕事するのが新鮮だ。
毎朝おはよう、気分はどう?ちゃんと眠れた?と言いながらみんなとコーヒーを飲んで一緒に仕事することの幸せを感じる。
今回一緒に設営を手伝ってくれたおじちゃんが、なんだかとてもいい感じだった。
とても真面目で、写真が好きで、自分の作品も気に入ってくれているのが伝わってくる。
作業をしながらちょこちょこと話しをした。
「ハッセルも好きだけど、ローライが実は一番好きなんだ」と言ったら、「自分も持ってる!見せてあげるよ」と言ってほんとに次ぎの日に持ってきてくれた。
使いこまれたワイドローライ。「ダイアン・アーバスもワイドローライ使ってたんだよね〜」とマニアな話をしたらとても嬉しそうだった。
Cui CuiのDVDを設営しているときも、真剣に色調整や音の調整をしていたのだけど、ちょっとした合間に「おじいちゃん、亡くなっちゃったんだね、、、」と、とてもかなしそうな顔をした彼の顔を見て、うっかり大泣きしそうになってしまった。
一期一会の仕事の仲間、ちょっとしたやりとりが海外だと余計にしみてきて、とても癒される。


 



オープニングの日、夜のパーティまで時間があったので、ストックホルムから来てくれたアイちゃんと一緒にぶらぶらとショッピングすることにした。
ヨーテボリは新市街と旧市街に別れていて、新市街はそのまんまだけど新しいショッピングセンターばかりで、似たようなお店が並ぶ。
ただでさえ日本の倍ぐらい物価がたかいのに、似たような商品ばかりなのであまり興味をそそられなかった。
自分は海外に行くと、いつも蚤の市とかセカンドハンズ(古着屋さんとか古道具屋さん)の店に行くのが楽しみなので、旧市街に向かった。 
小さなお店がいくつも並ぶ石畳の道を歩きながら、気に入ったお店を見つけてはのぞいてみる。
ドアを開けるとアイちゃんが「ヘイヘイ!」とお店の人に声をかけると、笑顔で「ヘイヘイ!」と返ってくる。
このあいさつのやりとりが、なんともかわいらしくてとても和む。
いくつかの店を物色したけど、今回は出会いが少なかった。
デザインが中途半端な感じだったり、ちょっとうす汚れたふうのものが多かったり、、、でも、そんななかでも1、2点光るものを見つけたので、楽しめた。
北欧は食器のデザインが素敵なものがよく見つかるので、そちらも楽しめた。
いくつか購入したいなあと思ったけど、いまうちにある食器の数々を思い出してあきらめた、、、
使わない食器が増えるのもよくないな、と思って。
でもあきらめてからだいぶ時間が経って、やっぱり買えばよかった〜などと後悔することもよくある。
人間くさい欲張りな自分に嫌気がさすけど、欲張りだからこそ楽しめることはたくさんある。
いつもそのあいだをうろうろしてる自分。
いつかいろんな欲や執着から解き放たれたときに、静かに死を迎えられるのが理想だなあ。

   



ひととおりぶらぶらしたあとで、コーヒータイム。
アイちゃんは従姉妹の幼なじみという、ちょっと自分とは遠い存在だったのだけど、25年ぐらい前に一緒に遊んだ記憶があり、ストックホルム在住ということで今回電車に揺られてやってきてくれたのだった。
25年という歳月を感じさせない笑顔でやってきたので、すぐに普通に話せたのが嬉しかった。
アイちゃんはストックホルムに住んで3年ほどらしいが、日本食が恋しくなることは少ないらしい。
自分もつい数年前までは、どこの国に行っても全然平気だったのだけど最近は急に和食大好きになってしまった。
うちでは玄米とか雑穀米ばっかり食べているから、海外に行くと食事がしんどい。
毎回インスタントの味噌汁とかラーメンとか持っていってごまかしてるが。
アイちゃんに生活や文化の違いなど聞きつつ大きなマグカップになみなみと入ったカフェオレを飲む。
そのなかでもおもしろかったのは、「ケチャップの蓋」の話。
スウェーデンでは、人間関係のたとえのひとつにケチャップの蓋をたとえて使うことがあるらしいのだ。
どういうことかというと、そんなに親しくなかった人が、急に自分の全部をさらけだして(まさしくケチャップの蓋から急にドバーっと中身が出て来るかのように)しまうことらしい。
日本ではケチャップというとチューブ式のものが一般的だからピンとこないかもしれないけど、向こうではビンのタイプが一般的で、トントン底をたたいてもなかなか出てこなくて、つい大きく振ってしまってドバーっと出てきて失敗することがよくあるのだった。
だからアイちゃんも、移住当初はとまどったことがあったようだ。
アイちゃんは彼氏がスウェーデン人ということで、結婚を機にストックホルムに住むことになったのだけど、だんなさんの友だちやお兄さんがそんなに会って時間が経ってないときからあまりにもなんでもさらけだすのにびっくりしたらしい。
でもきっとその人たちのなかでも基準があって、アイちゃんのことが好きになったからすぐに受け入れたからなんだろうけど。
自分の場合はどうだろう、と考えてみるとお酒を飲むとドバーッと流れがちになることはあるけど、普段は人によって差があると思う。
やっぱり初対面の人や仕事関係の人だとある一定の距離を保つし、仲のいい友だちにはすごく甘える。
いい調子でお酒を飲んだ次の朝なんて、最低な気分になることが多いおバカな自分だ。
そんなときはつい、飲み過ぎてゴメン、、、なんてメールしたり電話したりして、ますます自己嫌悪に陥る。
いったいいつになったらこんなことを繰りかえさずにすむのか、とつい先日も思ったことだ。
人と人の距離はいつも難しい。
仕事でモメたり、友だちとちょっと気まずくなったり、家族についイライラをぶちまけたり。
でもやっぱり人同士、顔を会わせてちゃんとあやまったり、電話を一本かけて声を聞いたりするとなんとかなるものだ。
ダメなのは向き合わないでなんとなく流したり、自分の非を感じつつもちゃんとあやまらなかったりすること。
スウェーデンの人はケチャップがドバーッと出たあとはちゃんと掃除をするのかなあ、、、?
こんどアイちゃんに聞いてみたい。




小雨のなか、早足で戻るともう人がたくさん来ていた。
簡単でいいからスピーチをしてくれと言われていたので、あたまの中で準備した簡単な英語を反芻する。
きょうは併設している美術館のオープニングも重なっていたから、想像以上にたくさんの人だった。
ちょっとしたお立ち台がつくられていて、その上でキュレ−タ−のミリアムと、グニラがいろいろ話してくれたあとに簡単なあいさつ。
皆が拍手してくれてほっとした。
そのあとはワインを飲んでひといきついていたら、いろいろ質問される。
いつも海外だと英語があまりうまくないから、つい緊張してしまうのだけど、最近は少し慣れてきてなんとか返せるようになってきた。
簡単な技術的な質問なら大丈夫だけど、たまに話しこんで説明が難しくなって四苦八苦するときもある。
海外でも日本でも同じ傾向は、やっぱり男の人が技術的な質問が多いこと。
そしてなぜかオタク〜な感じのおじちゃんもよくマニアックに質問してくる。
それから海外の場合、いい意味で気さくに話し掛けてくれる人も多いので、とても嬉しい。
いい意味でっていうのも説明が難しいけど、「お互い人間同士、大人同士だし」っていう暗黙のマナーがある、というか。
さらっと質問して納得したら、あなたの写真、好きだよ〜と、これまたさらっと感想を言って笑顔で立ち去る。
例えがヘンだけど、商店街の八百屋のおかみさんになったような気分になる。
来てくれたお客さんと、気さくに世間話してるような感じ。
大手スーパーマーケットのレジ係ではないふれあいがあるというか。
自分はいつも、商店街の八百屋さんぐらいの規模でいたいなと思う。
スタッフはいつもちゃんとコミュニケーションがとれる少人数で、量販店にはないオリジナリティを持ち、たくさんの仕事はできないけど、クォリティは保ちながら地道にやっていきたい。
英語とスウェーデン語が飛び交うなか、ほろ酔い気分でそんなふうに思った。






たぶんハッセルブラッドの創業者の方の銅像だと思う。入り口にありました。手に持っているのが美しいフォルムのハッセルブラッドカメラ。 街中にあった夜空を彩るカーテン。 たっぷりのクリームは乳脂肪分たっぷり。こってり。目をしばしばさせながら食べた。
 



スウェーデンのランチタイムはちょうど12時。どこのお店も混んでいる。ここのお店のお寿司はまあまあ。 北欧の街はいろんなものがデザイン的にすっきりして機能的。公衆電話の赤もかわいい。 なんだろう、、、気持ち悪い、、、ソーセージかな?覚えてない、、、




寒い国だからか、おばあさんの杖はスキー用のストックだった 公園にある凍った池で、赤い女の子がひとりでスケートしていた。 この国では男の人も育児に参加するのが当たり前。ベビーカーを押す男の人をたくさん見かけた。



滞在中の朝ごはんは毎朝ずっとこんな感じ。シンプルで飽きなかった。 ホテル内の食堂。かわいい絵が壁いっぱいに描かれていて和む。 マーケット内の肉屋のオブジェたち。

 



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